人間のからだは、暑さや運動によって体温が上がりすぎることを防ぐため、必要に応じて汗をかき、かいた汗の蒸発とともに熱を発散するようにできています。
また、精神的な緊張やストレスも発汗の原因となります。多汗症の症状があらわれやすいのは、手のひらや足の裏、ワキの下、額など、汗腺が密集している部位です。
多汗症に悩む人は、思春期から中年世代までの社会的活動が盛んな年代に多いといわれています。男女の比率はほぼ同等です。
明らかな原因が存在しない「原発性多汗症」と、何らかの病気や使用している薬が原因となる「続発性多汗症」に分けられます。続発性多汗症は、原因となる病気を先に治療する必要があります。

多汗症の治療法
01わきが手術
神経を切断する手術などがあり、種類によっては健康保険が使えます。
わきがの手術をすることにより一部の汗は抑えられます。
02多汗症の外用薬について
原発性多汗症は、手のひら・足の裏・わきの下・顔などに、日常生活に支障が出るほど多量の汗が出てしまう病気です。
近年は外用薬(皮膚に直接塗る薬)が登場し、保険診療で治療が受けられるようになりました。
①エクロック®ゲル(ソフピロニウム臭化物ゲル)
- 対象部位:
- わき(原発性腋窩多汗症のみ保険適応)
- 使用方法:
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- 1日1回、わきの下に塗布
- 専用のアプリケーターで直接塗り、薬液が手に触れないようにする
- 特徴:
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- 日本で初めて保険適応になった「わき汗用の塗り薬」
- 塗った部位の汗腺に直接作用して、発汗を抑える
- 注意点:
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- 目や口に触れると副作用が出やすいため、塗布後は手をよく洗う
②ラピフォート®ワイプ(グリコピロニウムトシル酸塩含有シート)
- 対象部位:
- わき(原発性腋窩多汗症)
- 使用方法:
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- 1日1回、使い捨てシートで左右のわきに塗布
- 手を汚さずに使える
- 特徴:
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- 持ち運びやすく、外出先でも使用しやすい
- ジェルよりも手軽で、夏場に人気
- 注意点:
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- 使用後は必ず手を洗う
- 皮膚刺激(赤み・かぶれ)が出る場合がある
③アポハイド®ローション(グリコピロニウム臭化物水和物ローション)
- 対象部位:
- 手のひら・足の裏(原発性手掌多汗症・足底多汗症)
- 使用方法:
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- 1日1回、手のひらまたは足の裏に塗布
- 塗ったあとはしっかり乾かしてから手袋・靴下を着用
- 特徴:
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- 日本で初めて「手のひら・足の裏の多汗症」に使える薬として登場
- 外用薬で治療できる選択肢が広がった
- 注意点:
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- 手に塗った後に目をこすると副作用(目のかすみ)が出ることがある
- 小児では保護者の管理下で使用する必要あり
03注射薬(ボツリヌス療法)
ボツリヌス菌がつくる天然のたんぱく質を有効成分とする薬をワキの下に注射します。
注射にかかる時間は5~10分程度です。(診断や検査の時間を除く)
1回注射すると効果が4~9ヶ月持続するので、年に1~2回程度の治療で汗を抑えることができます。
重度の原発性腋窩多汗症であれば、健康保険が使えるようになりました。
2週間後に受診が必要です。
04飲み薬(内服薬)
外用薬だけでは十分に効果が得られない場合や、全身性の発汗で悩まれている方には、内服薬や漢方薬を使うこともあります。
①内服薬:プロバンサイン®(一般名:プロパンテリン臭化物)
- 特徴:
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- 保険診療で使える内服薬
- 自律神経に作用し、発汗を抑える働きがあります
- わき汗、手のひらの汗、全身の多汗などに効果が期待できます
- 使用方法:
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- 1日2~3回の内服
- 効果の出方には個人差がありますが、服用してから数時間で効果が現れることが多いです
- 注意点:
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- 口の渇き
- 便秘
- 目のかすみ(特に近くが見えにくい)
- 動悸や排尿しづらさ
→ これらは「抗コリン作用」と呼ばれる副作用で、体質によって強く出る場合があります。
→ 必要に応じて用量を調整したり、使用を控えることもあります。
②漢方薬による治療
多汗症は体質や自律神経の乱れと関係が深いため、当院では漢方薬を用いた治療も行っています。
よく使われる漢方薬
- 柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
- → 精神的な緊張やストレスで汗が出やすいタイプに
- 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
- → 顔のほてりやのぼせを伴う汗に
- 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
- → 体力があまりなく、水分代謝が悪い体質の方に
- 六君子湯(りっくんしとう)
- → 胃腸が弱く、冷や汗やだるさを伴うタイプに
漢方の特徴
- 西洋薬(プロバンサイン)のように「即効性で汗を止める」というより、体質から整えて汗のかき方を改善するという発想
- 自律神経や内臓の調子を整えることで、無理なく発汗をコントロールします
- 「お腹」「舌」「脈」「体質」などを診て、その人に合った処方を選びます
05その他
手掌多汗症治療 ― イオントフォレーシスとは
- イオントフォレーシスとは?
- イオントフォレーシスは、手や足を水に浸し、微弱な電流を流すことで汗の分泌を抑える治療法です。
外科手術や薬に頼らずに行えるため、比較的安全で副作用が少ないのが特徴です。
- 治療の流れ
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- 専用の機械に水を入れ、その中に手のひら(または足の裏)を浸します。
- 数mA程度の弱い直流電流を10〜20分ほど流します。
- 電流の作用で汗腺の働きが一時的に抑えられ、汗が出にくくなります。
- 通常は週に1〜2回から始め、効果が安定してきたら回数を減らしていきます。
- 効果
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- 継続することで、手のひらの汗が少なくなり、日常生活が楽になる方が多いです。
- 効果は一時的なため、定期的な治療の継続が必要です。
- 外用薬(アポハイド®など)と併用することで、より効果が高まることもあります。
- メリット
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- 薬を使わない治療なので、副作用が少ない
- 小児から大人まで幅広く使用可能
- 習慣的に続けることで長期的なコントロールが可能
- 注意点
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- 通電時にピリピリとした刺激を感じることがあります。
- 皮膚が乾燥したり、赤み・ひび割れが出ることがあります。
- ペースメーカーを使っている方など、一部の方には使用できません。
- 効果を維持するには定期的な通院または家庭用機器での継続が必要です。
スーパーライザー治療 ― 星状神経節照射による多汗症改善
- 星状神経節とは?
- 首の付け根(のどぼとけの横あたり)には、交感神経の集まる場所=星状神経節があります。
ここは自律神経の中継点のような役割をしており、体の緊張・リラックスのバランスを整える働きをしています。
- スーパーライザーとは?
- スーパーライザーは、近赤外線を照射する医療用光線治療器です。
体の奥まで光が届き、血流改善や自律神経の調整作用があります。
- 治療のしくみ
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- 星状神経節にスーパーライザーを照射することで、交感神経の過緊張をやわらげ、副交感神経とのバランスを整えることができます。
- その結果、ストレスや緊張によって出やすくなっていた汗(手汗・顔汗など)が改善されることがあります。
- 治療の流れ
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- ベッドに横になり、首の前方に専用のプローブをあてます。
- 片側10分程度(両側で20分前後)照射します。
- 痛みはなく、じんわり温かい感覚がある程度です。
- 治療後すぐに普段の生活に戻れます。
- メリット
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- 注射や薬を使わないため、副作用が少ない
- 照射中の痛みはほとんどなし
- 自律神経バランスの改善にもつながり、冷え・頭痛・肩こりの改善効果も期待できます
- 注意点
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- 効果には個人差があり、数回の治療を継続して行う必要があります。
- 根本的に多汗症を「治す」治療ではなく、自律神経の過緊張をやわらげる補助的な治療です。
- 妊娠中や光線過敏症のある方には使用できない場合があります。