アトピー性皮膚炎

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アトピー性皮膚炎について

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎は、皮膚にかゆみを伴う湿疹が繰り返し生じる慢性の皮膚疾患です。
体質的な要素(アトピー素因)に加え、皮膚のバリア機能の弱さ、アレルギーや免疫の異常、生活環境の影響など、さまざまな要因が関わっていると考えられています。

従来の治療とその限界

これまでアトピー性皮膚炎の治療といえば、ステロイド外用剤が中心でした。確かにステロイドは炎症を速やかに抑える効果がありますが、長期に漫然と使用することで、皮膚の菲薄化や全身への副作用が懸念されることもあります。

また、医師から「もっと塗りなさい」「サボってはいけない」と言われても、患者さんにとっては毎日全身に薬を塗布し続けること自体が大きなストレスです。
「私たちは軟膏を塗るために生まれてきたのではない!」と感じる患者さんの思いも、決して大げさではなく、ごく自然な感情だと考えています。

大人になっても続くアトピーの現実

かつては「子どものアトピーは大人になると自然に治る」と言われることもありました。しかし実際には、

  • 大人になっても治らない
  • 一度よくなったのに再燃する
  • 子どもの頃は軽症だったのに、大人になってから悪化する

といったケースも多く、長年悩み続けている方が少なくありません。

新しい治療選択肢

現在は、ステロイドだけに頼らない治療の幅が大きく広がっています。

生物学的製剤・分子標的薬

注射デユピクセント

デュピクセント(デュピルマブ)
かゆみや皮疹を根本から抑える注射薬
JAK阻害薬(内服薬・外用薬)
炎症やかゆみを制御する新しいタイプの薬剤

ステロイド以外の外用薬

プロトピック軟膏(タクロリムス)
免疫抑制作用、顔や首などに適応
コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)
かゆみを強力に抑えるJAK阻害薬外用剤
モイゼルト軟膏(ジファミラスト)
安全性が高く小児にも使用可
ブイタマー軟膏
マイルドな抗炎症作用で補助的に使用

医療機器による治療

エキシマレーザー
限局した部位の炎症を効果的に抑える
ダブリン(全身型光線治療器)
広範囲の皮疹やかゆみに対応
スーパーライザー
星状神経節への近赤外線照射で、自律神経のバランスを整え、かゆみを軽減

体質改善を目的とした治療

漢方薬
体全体の「気・血・水」のバランスを整え、皮膚症状と同時に便通・睡眠・月経・胃腸などの改善を目指す
注射治療(ノイロトロピン・ヒスタグロビンなど)
アレルギーを起こしにくい体質へのシフトを促す
タール剤外用
昔からある自然由来の治療。独特の匂いはあるが、炎症抑制に効果的

皮膚表面の環境を整える治療

超酸性水(強酸性水)
皮膚表面の雑菌のバランスを調整し、炎症を鎮める作用
自然素材を用いた保湿・外用剤
できるだけ負担の少ないスキンケア

当院の方針

アトピー性皮膚炎は「出てから治す」のではなく「出ないように整える」ことが大切です。
当院では、ステロイドや新しい分子標的薬に加え、光線療法、漢方、注射治療、自然外用剤など、幅広い治療を組み合わせ、患者さん一人ひとりの生活に合わせた“専用レシピ”を作ることを重視しています。

「漫然と薬を塗る」ことに疲れてしまった方でも、今の時代はもっと選択肢があります。最終的な目標は、“皮膚が落ち着くこと”だけでなく、“毎日の生活が楽しくなること”です。

アトピー性皮膚炎のプロアクティブ療法について

プロアクティブ療法とは

従来のアトピー性皮膚炎の治療は、かゆみや赤みが出てからステロイドを塗る「リアクティブ療法」が中心でした。
しかし最近は、症状が落ち着いている時期にも適度に治療薬を継続して使用し、「悪化を未然に防ぐ」ことを目的とする治療法=プロアクティブ療法
が推奨されています。

この方法により、炎症の再燃を予防し、結果的にステロイドの使用量を減らしながら、良好な皮膚状態を維持することが可能になります。

使用する主なお薬

ステロイド外用薬

  • 急な悪化時に有効。
  • 短期間で炎症をしっかり抑える役割を持ちます。
  • プロアクティブ療法では「必要なときにスポット的に使用」する形になります。

プロトピック軟膏(タクロリムス)

  • ステロイドではない免疫抑制外用薬。
  • 長期に使っても皮膚が薄くならないのが特徴です。
  • 主に顔や首など、皮膚の薄い部位にも使用できます。
  • 塗り始めにヒリヒリ感を伴うことがありますが、次第に軽快します。

コレクチム軟膏(デルゴシチニブ)

  • JAK阻害薬外用剤。
  • かゆみを抑える作用が強く、炎症も改善します。
  • 成人から小児まで幅広く使用可能です。
  • 比較的新しい薬で、ステロイドやプロトピックで十分な効果が得られない場合にも有効です。

モイゼルト軟膏(ジファミラスト)

  • PDE4阻害薬外用剤。
  • 炎症を抑えつつ、副作用が少ないのが特徴。
  • 小児にも使用でき、安全性が高いとされています。
  • 保湿剤に近い感覚で使えるケースもあり、軽症から中等症に有効です。

ブイタマー軟膏(ジメチルイソプロピルアズレン)

  • 抗炎症作用を持つ非ステロイド軟膏。
  • 比較的マイルドな効き目で、軽症の方や、敏感肌の部位に使いやすい薬です。
  • 他の外用剤との併用で補助的に用いられることが多いです。

当院の方針

  • アトピー性皮膚炎は「出てから治す」のではなく「出ないようにコントロールする」ことが大切です。
  • ステロイドを必要最小限にとどめながら、プロトピックやコレクチム、モイゼルト、ブイタマーなどを上手に使い分けていくことで、皮膚の安定と生活の質の改善を目指します。
  • 一人ひとりの症状や生活リズムに合わせて、最適な組み合わせをご提案いたします。

アトピー性皮膚炎について考えること

皮膚はからだの声を映す鏡 〜ステロイドと自己治癒力のバランス〜

私はステロイド自体を悪者扱いしているわけではありません。人類が開発してきた素晴らしい効果のでるものだと思っていますし、臨床の場でも使っております。ずっと昔はこのような薬がありませんでしたので、どのような皮膚の病気でも早く治るということがあまりありませんでしたので救世主的な存在になったのも無理はありません。しかし、あくまでも皮膚に何か発疹なりかゆみなりが出るということは、からだ全体、体の内部、心の状態的にアンバランスになっており、その表現として外である皮膚に出てきていると私は捉えております。

皮膚の症状は氷山の一角にすぎません。特にアトピー性皮膚炎に限らず慢性の皮膚病の場合にはその傾向が大きいといえると思います。氷山の一角だけをステロイドでたたき、症状をなくしたり軽減させても、その間に氷山の水につかった下部の大きなアンバランスを整えていくことをしなければ、結局いたちごっこになります。かつ、次回の皮膚への症状発現は前回よりも大きなものになることが多いです。

ステロイドを一時期に使いつつも、内部の異常に耳を傾け、養生されるならば非常に賢い使い方といえますが、ステロイドを漫然と塗り続け、体の声を無視し、無理を続けた結果・・・というのは、ある意味人類は自分たちの開発したもので身を滅ぼしていっているといえるのではないでしょうか?

皮膚に何を塗ればいいのか?と私はよく質問されます。何か塗るもののご指導をするスペシャリストと思ってくださっているのかもしれません。確かに私は外用薬の処方もいたしますし、その方にあったスキンケアのクリームもアドバイスさせていただいています。しかし、声を大に言いたいのは「皮膚は排泄器官である」ということです。皮膚の健康を保つにあたって最も大事なのは、皮膚にきちんと排泄させてあげる・・ということです。

人間にはほかの排泄器官があります。尿として、便通として、生理として、汗として・・このようなほかの排泄器官の機能が乱れたときも、皮膚には排泄に関しての負担がかかりますので、皮膚症状が悪化することが多いです。ですから他の臓器の乱れも治しつつ、皮膚にはしっかり本来の仕事をしていただく・・というのが正しい治療の流れと考えています。すると皮膚にいろいろプラスして塗ることよりも、できるだけ引き算をしていくこと・・これが基本大事になってきます。いろいろ塗ったり足さない、今まであるものをまず引き算していって自己治癒力を引き出すことです。

とくに私のところには新生児、乳児さんを連れてきてくださる方が多いです。生まれたてのかわいいわが子がほほに赤い湿疹、皮膚にいろいろ出て、まわりの人から「かわいそうだから、何か塗ってやりなさい」とかアドバイスされたりして、親御さんもパニックになられていることが多いです。私は特に小さなお子さんの場合には、多くを塗ってもらいません。極端な場合では、超酸性水で皮膚表面の雑菌を減らしてもらうだけの指導です。何かお薬をもらおうと来られた親御さんは、ちょっと驚かれることもありますが、説明するとわかっていただけますし、次回来られた時、よくなっているので安心してもらえます。

大人と違い、子供さんの場合、成長という大きな味方がありますので、よりこの自己治癒力をただ引き出す考え方の治療のほうが、副作用なく治っていくというのが私の持論です。成長に従い、改善していく傾向があまりみられない場合に限り、漢方薬などによる体質改善を行います。大人よりはるかに改善率が高いので、私は大人になるまで引きずる前に、子供時代のうちに体質改善してほしいなあ・・といつも思っています。

「脱ステロイド」はゴールではなく、方法です

アトピー性皮膚炎の治療には、長年さまざまな考え方が存在します。その中で特に議論の的になりやすいのが「ステロイド外用薬」の使い方です。

確かに、ステロイド外用薬を長期にわたり漫然と使用すると、皮膚の菲薄化や全身状態への影響といった問題が生じることがあります。そのため、必要以上に長く続けることは避けたいと考えています。

一方で、私は決して「脱ステロイド教」の立場ではありません。長くアトピーに苦しんでこられた方の中には「脱ステロイドしか道がない」「少しでもステロイドを塗ると大変なことになる」と強く信じ込み、すべてに疑心暗鬼になられているケースをしばしば見かけます。しかし、そのように選択肢を自ら狭めてしまうことで、かえって治療の幅がなくなり、生活の質を損なってしまうこともあるのです。

私が考える治療のゴールは、病気そのものを消し去ることだけではありません。「今日もなんだか幸せ」と思える毎日を送ることが何よりも大切だと思っています。かゆみや滲出液で眠れない夜を過ごし、学校や仕事に行けないほどつらい状況になっても「脱ステロイドだけ」を念じ続けているのでは本末転倒です。

当院では、ステロイドを含め、西洋医学的な治療、漢方薬、スキンケア、生活指導など、さまざまな治療オプションを提示しています。患者さんご自身の考え方や生活の状況に合わせて、一緒に最適な選択をしていくことを大切にしています。

私は治療法を押し付けるのではなく、患者さんに寄り添い、道先案内人としての役割を果たすことを心がけています。

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